IPDとは、建築の発注者である施主、設計担当者やコンサル、施工業者などがプロジェクトの初めから情報を共有したり協力したりすることで、より良い建築物を作り上げる合理的な建築プロセスのことです。Integrated project Delivery(インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー)の頭文字をとったものが、IPDです。
IPDという概念が生まれた背景には、建築業界の発展が関係しています。建築会社や関連業界は、知識や建築技術の蓄積と高度化、企業の拡大などによって作業工程などが部門ごとに細かく分かれるようになりました。高度の発達した業界である一方、1つの建築物を建てるには、複数の部門が情報を共有したり会議を重ねたりしながらプロジェクトを進めなければならず、情報の認識にずれや連絡ミス、非合理的な作業工程などといった問題につながるケースも出てきています。
そこでアメリカの建設業界では、Integrated project Delivery:IPDという協業形態および概念を生み出しました。
IPDは施主もプロジェクトに参加できる形態なので、初期費用から細かなスケジュール、工事日程も確認・理解してもらいやすくなります。また、建設会社側は、設計担当者や現場の作業者、エンジニアなど、各部門の軋轢や情報認識のずれなどを防ぎやすく、責任の押し付けなどといった事態を避けやすい環境へつくりかえられます。
このようにチームプレーで設計・建築を進められるIPDは、良いものをつくる、というものづくりの原点であり重要なポイントを押さえた考え方です。
IPDの実現には、各部門のコミュニケーションを密接に行える環境の構築が欠かせません。具体的には、建築の工程表、建築コスト、設計図面、部材や建築に関する情報などをそれぞれが把握しておかなければいけません。しかし、メールツールや対面、ビデオ会議といった方法では、図面など建築業界特有の情報を効率的に共有・理解することが難しい状況です。また、常にリアルタイムで情報共有できません。
そこで考えられているのがBIMの活用です。
BIMは、建築に関するあらゆる情報を管理・共有できるソフトウェアで、コンセプト設計から意匠設計、実施設計など、各段階の図面や3D画像を表現できます。さらに3DCADとの連携で、構造データの管理や空調システムなどのシミュレーションや分析を進められます。
効率的な建築を進めるには、IPDをベースにしたプロジェクトの構築に加え、BIMの導入が必要です。
日本は、アメリカと異なりコンティンジェンシーや明確な精算基準などがなく、非合理的な側面もあります。
コンティンジェンシーとは、建設業務で想定されるリスクを予備費として設定されたものです。アメリカでは、建設業務にかかるリスクを金額に換算し、あらかじめ予算を確保しています。一方、日本の建設業界では、リスクを金額へ換算せず受け入れている状況です。
精算基準に関しては、各部門独自の方法で定められている傾向となっています。そのため、統一的な計算ができず、リスクやコストを評価できません。
日本は、FM(ファシリティマネジメント)へのデータ連携のために用いられているフォーマットのCOBie、IPDやBIMの活用指針やガイドライン、建築確認の電子申請や審査方法など、あらゆるガイドラインが未整備の状態です。現状では、IPDを取り入れても効率的に活用できない可能性があるので、ルール作りやデータ連携、建築確認の申請方法などといった点を明確に示しておく必要があります。
ヨーロッパやアメリカは、国がBIMやIPDの指針を設定し、民間企業同士で連携しながら建設業務を進めています。しかし、日本には、BIMなどに関する統合的な指針や組織がありません。統一的な指針の下で効率よく建設するには、まず国による環境整備が必要です。