国土交通省は2014年8月、官庁営繕事業におけるBIMのガイドラインを公表しました。これは、官庁施設の設計業務や建設工事でBIMを導入する場合の方針や留意事項をまとめた文書です。同ガイドラインの内容に沿ってBIMを導入することで、建築分野における生産性の向上、官庁施設の品質の確保、官庁施設における顧客満足度の向上などが期待されています。
一方、国土交通省のBIMガイドラインを読んだものの、ポイントがよく分からなかったと言う方も多いかもしれません。ガイドラインには専門的な内容も多分に含まれており、そのまま読んでも理解できない場合が少なくないからです。そこで今回はそのような方々を対象に、BIMガイドラインについて分かりやすく嚙み砕いて説明していきます。ぜひ参考にしてください。
BIMのガイドラインの前に、そもそも「BIM」とは何か?について説明します。
国土交通省がガイドラインを示す「BIM(ビム)」というのは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略語で、直訳すると「建物情報モデル」となります。BIM対応の専用ソフトウェアを使用したコンピューター上に3Dの建物情報モデルを作成し、意匠・構造・設備といった様々な建物情報も登録してデータベース化し、一元管理できるようにしたツールがBIMです。
BIMモデルの中には、これから建設する施設のイメージ(3Dモデル)だけでなく、施設の基本情報・建材パーツ・設備機器・面積・寸法など、必要になるあらゆる情報がインプットされています。コンピューターの中に建設したモデルハウスと言い換えてもいいでしょう。
BIM導入によるメリットは多彩です。例えば、施工前に建物情報モデルを構築しておくことで、設計段階から建物の完成後を想定できるため、精度の高い企画や設計が可能になります。また、BIMを導入すれば種々の工程やオブジェクトごとに分散していた情報が一つに統合されるため、情報共有や業務遂行がスピーディーになります。
3Dの建物モデルといえば、3D CADを想像しますが、BIMと3D CADでは何が違うのでしょうか?両者の決定的に異なるところは、建物情報モデルの作成方法と修正が必要になった場合の対応力です。
まず従来の3D CADでは、最初に2次元の図面を作成してから3次元の形状を構築し、その後、CGでシミュレーションを行うという流れになります。このためどこかで修正が必要になると、その箇所だけでなく、立面図、展開図、断面図など関連する2次元の図面を全て一つずつ修正していかなければなりません。
これに対してBIMでは、最初から3次元で建物モデルを作成し、3次元から2次元の図面を分離して作成することが可能です。そして、BIMでは全てのデータを統合し一元管理されているため、どこかで設計変更が生じても図面を一つずつ修正する必要はなく、BIMモデルを修正すればそれ以外の部分も自動修正されます。
BIMガイドラインは、上記のBIMを官庁営繕事業で利用する際の指針・指標をまとめた文書です。BIMガイドラインは「総則」「設計業務編」「工事編」の3部構成からなっています。ここでは各編の概要を説明します。
BIMガイドラインの「総則」では、BIMガイドラインを策定した目的、適用、用語の定義、BIMソフトウェアの形式や空間、建物部材といったオブジェクトごとのBIMモデル作成の指針・指標が記載されています。
例えば、異なるBIMソフトウェアを使用してBIMモデルを作成する場合は「IFC形式」で入出力できるものとし、ソフトウェア間の互換性を確保する旨が示されています。
また「単位と座標系」に関しては、単位をミリメートルで統一し、単位記号は省略すること、ミリメートル以外の場合は、原則として「SI単位」とし、その記号を記載する旨が示されています。座標値は、国土交通省告示の平面直角座標系に規定する世界測地系に従う直角座標とします。
「属性情報の命名」に関しては、建築材料や資機材の名称について、原則として「公共建築工事標準仕様書」によることが記載されています。以上がBIMガイドラインにおける総則の概要ですが、総則の内容は続く「設計業務編」「工事編」のいずれの場合にも適用されます。
BIMガイドラインの第2編・設計業務編は、第1章「適用」、第2章「BIMに関する実施方法等」、第3章「図面等の作成」、第4章「技術的な検討」、第5章「その他」、「別表1」「別表2」「別表3」からなっています。
例えば、意匠では建物全体のBIMモデルを作成し、機械設備等では部分的にBIMモデルを作成するという場合、BIMモデルを作成する範囲について、BIMモデルの利用目的に応じて設計業務ごとに設定します。
また、受注者がBIMモデルを作成又は利用して2次元の図面等を作成したり技術的な検討を行ったりする場合には、BIMに関する実施方法、実施内容、実施体制等について業務計画書に記載するものとしています。
BIMモデルを利用して2次元の図面等を作成し、ソフトウェアの制約上、必要な寸法線等が自動表記されない場合は、BIMモデルより出力した後に2次元の図面等上で寸法線等を編集しなければなりません。
「技術的な検討」では、技術的な検討を行うためのBIMモデルの詳細度の目安、建築可能範囲の検討、建築物へのアプローチの検討、平面計画の検討、各種技術資料等の作成、各室の面積算出、コスト管理、干渉チェック、シミュレーションに関する指針や留意事項が記載されています。
BIMガイドラインの第3編・工事編は、第1章「適用」、第2章「完成図等の作成」、第3章「技術的な検討」、「別表1」による構成となっています。
工事関係図書(実施工程表・施工計画書・施工図等)の作成方法は、一般に受注者のノウハウによるものであり、受注者が自らBIMモデルを作成・利用して工事関係図書を作成する場合も受注者のノウハウによるものとする旨が記載されています。
建築工事における2次元の完成図、各室の面積等における詳細度の目安は、概ね基本設計図と同等であり、属性情報は各製品の製造者(製造所)名及び製品番号を入力します。
技術的な検討における干渉チェックは、建物部材のオブジェクトに反映したBIMモデルにより、確定した機器の外径寸法等をチェックします。干渉チェックにおいて求めるレベルは、BIMモデルを利用しない場合に行われているレベルと変わりません。
「別表1」には、完成図等の作成のためのBIMモデルの詳細度の目安(参考)が記載されています。
BIMガイドラインは、官庁営繕事業における設計業務・工事業務をBIMの活用によって行う際の基本テキストです。ガイドラインに準じて業務を進めることにより、有効なBIMモデル作成できるなど、BIM導入の利点や効用を拡大することが可能になります。BIMモデルの代表例や詳細度の目安も具体的に示されていますので、これらを参照しながら各種業務を行うことで、生産性向上に貢献する有効なBIMモデルを円滑に作成できるでしょう。
2020年度に建設関係者480人に行った調査(※1)にて56.4%が勤務先でBIMを導入していると回答されているように、BIMの導入は急速進んでいます。
BIM導入済みの286の設計事務所においては、65.9%が「効果があった」とし、プレゼン力の向上、ミスの減少、時間短縮などの実感も得られています(※2)。
代表的なBIMソフトやおすすめの連携ソフトもまとめていますので、検討してみてはいかがでしょうか。