カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるための取り組みや方針です。温室効果ガスとは、二酸化炭素やメタンガスなど、太陽から注がれた熱を地球内に閉じ込める物質のこと。温室効果ガスは私たちの生活に欠かせない物質ですが、増加すると環境に影響を与えてしまいます。
「植物が温室効果ガスを吸収する量」と「私たちの生活で排出される温室効果ガス」を同じ量にするために、各国で様々な取り組みを行なっています。日本でも2050年のカーボンニュートラル達成の目標を掲げています。
温室効果ガスの1つであるCO2(二酸化炭素)は、火力発電の燃焼時や自動車の排気ガスなどさまざまな場面で発生します。日本のCO2排出量は、産業部門だけで全体の35%程度を占めています。産業部門の建設機械関連は、CO2排出量500万トン以上と同部門の1.4%にあたります。つまり建設業界では様々な建設機械を稼働しなければならず、結果として多量のCO2を排出している状況です。
設計事務所を経営している方や設計担当者などは、建築設計に必要なエネルギー削減が求められています。
建築物の省エネに関して定めた法律として、2015年7月に建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)が公布されました。建築物や建築物に設置された機器類から排出されるエネルギーの増加が続いたことを受け、さまざまな指針や要件が同法律に定められています。
また国土交通省が2022年4月に、省エネ性能の一層の向上として「2025年度以降に新築する全建築物に省エネ基準への適合を義務付ける」と発表しました。カーボンニュートラルを目指すためには、環境関連企業や環境団体だけでなく国全体で取り組むことが重要です。建築会社や設計事務所は特に準備を進める必要があります。
建設業は、さまざまな産業の中でも資材調達・施設運用など、脱炭素化が可能な業種の1つと言えるでしょう。また国の法律や方針により、建築物の種類に関係なくカーボンニュートラルが求められているため、脱炭素化に向けて幅広い取り組みが必要になります。
建設業が脱炭素化を進める上で、DXの推進が有効です。建築物の情報を集約したBIMの導入が進んでおり、施工前に環境負荷を効率良く分析できます。建造物の3D画像から、環境対策をとりながら完成に向けたシミュレーションが可能。逆算しながら資材の調達費用の削減や仕様整理ができます。
建設業でBIMはDXの重要な要素の1つです。しかし施工時のデータしか取得できず、竣工後のデータをBIMから取得・確認できません。
施工時の温室効果ガスの排出量は、建築物全体でみると10%程度と少ない状況です。建築物に関するエネルギーのほとんどは、運用時に排出されます。MEP2(機械・電気・排給水設備衛生関連設備)の運用データがなければ、エネルギーの分析は難しいでしょう。
建築物のライフサイクルに関するデータから、カーボンニュートラルを進めるには「設備の利用モデル」と「利用モデルに基づく排出量計推定ロジック」の活用が必要です。
「設備の利用モデル」とは、設備の利用環境などの条件を仮定した上で、設備活用のオペレーションを想定する方法です。「利用モデルに基づく排出量計推定ロジック」は、MEPから取得したデータからカーボンフットプリントの算定式を作成し、解析を行うロジックを指しています。
BIMに必要なデータとなる、設備の運用時に発生するCO2排出量や設備活用のシミュレーションを的確に行う必要があります。