グローバルなBIMとは、世界各国で共通のプロセスやワークフロー、データを共有することで、国際的な連携を促進しようという取り組みのことです。共通言語となるグローバルなBIMを進めることにより、情報のサイロ化や経済的障壁など施工における様々な問題の解消が期待されています。
グローバルなBIMが誕生したのは、2011年のイギリスにおいて、建設分野のイノベーションの促進・活性化のために政府や公営企業が果たすべき役割についての議論が始まったのがきっかけです。
建設業は世界でもトップクラスの市場規模を持ち、イギリスだけでは抜本的な改革が難しいことから、世界各国の連携を促進するグローバルなBIMのアイディアが生まれました。
2015年には、20ヶ国以上の欧州諸国が参加するEU BIM Task Groupを結成。また、同年にチリがイギリスとパートナップシップを結び、政府主導によるグローバルなBIM政策を開始しました。そのほかにも、メキシコやコロンビア、ペルー、ブラジル、ベトナム、シンガポール、香港もイギリスと提携を結んでおり、各国の政府がグローバルなBIMに乗り出しています。
2021年3月には、世界100カ国から2,000人以上が参加するGlobal BIM Summitが正式に立ち上がりました。これにより、BIMを世界に広めるための協調的枠組みの構築が期待されています。
世界最大の産業の1つにあげられる建設業界は、非効率なプロセスや運用の変更への抵抗が長年の課題となっていました。新しい技術の導入が遅れており、売上に対するデジタルツールへの投資率も高くありません。それによって情報のサイロ化やサプライチェーンの断絶、生産性の低下を招いており、業界間での連携を妨害する要因となっています。
そのような状況のなか、グローバルなBIMが世界各国でようやく浸透しはじめるように。グローバルなBIMが台頭しはじめた理由としては、次の3つがあげられます。
世界情勢が激変した2020年は、建設DXにおいても変化を見せる年となりました。一部の企業でリモートワークやリモート連携の拡大、クラウドへの資産移行、サプライチェーンの冗長化の構築などが行なわれ、デジタル化が加速。これまで遅れていたテクノロジー導入の取り組みが、予定より3~4年も前倒しになったとされています。
グローバルなBIMが浸透し始めた2つ目の理由は、AEC(建設・エンジニアリング・建築)業界においてデジタルによる革新的なイノベーションを行なう絶好の機会という認識が広まったこと。デジタルモデルへの移行で生産性や品質の向上の実感につながったことで、BIMの価値が認められるようになりました。
BIMにより成功する企業や国が増えたことで、世界各地でBIMが受け入れられはじめているのも、グローバルなBIMが浸透している理由としてあげられるでしょう。たとえば、建造環境分野でよく知られるイギリスのBIMプログラムは、政府がBIMにおける役割をどのように果たせるのかを示す指標となっています。
イギリスでBIMが推進されるきっかけとなったのは、2008年に発生した金融危機です。公共投資が大幅に削減されたのを受け、プロジェクトのコスト削減と生産性の向上を実現するために建設業界のデジタル化が加速されました。
2011年には、イギリス国外でのBIM導入を推進する政府プログラムがスタート。イギリス政府は2016年までにすべての公共プロジェクトでBIMレベル2の義務化を決め、それにより2011年~2015年の公共プロジェクトにおいて4,600億円以上のコスト削減に大きく貢献しました。
現在は、2025年までにプロジェクトの納期を50%短縮、建設コストとライフサイクルコストに関しては33%削減するという目標を設定。このプログラムの実施方法を学ぼうと世界各国がイギリスにアプローチしており、イギリスがグローバルBIMにおけるリーダー的役割を担っています。
2009年にアメリカの中西部に位置するウィスコンシン州が、5.5億円以上の公共プロジェクトに対して、BIMの導入を義務化。アメリカでBIMの義務化が行なわれたのは、ウィスコンシン州が初です。
これまで全国的なBIMの義務化を行なってこなかったアメリカ政府ですが、2021年2月に連邦政府機関による円卓会議を行ない、BIM規格の実現に向けての動きを見せつつあり。また、新しい雇用計画においてもインフラの全体的な見直しが呼びかけられており、全国的にDXの一体化を図る機会を迎えています。
2015年にチリがデジタルモデルの移行方法を学ぼうとイギリスと提携を結んだことで、ラテンアメリカにおけるBIM変革の指導者としての役割を担うように。2018年には、チリがラテンアメリカ諸国とBIM会議を開催。これを機に、チリをはじめ、アルゼンチンやブラジル、コロンビア、コスタリカ、メキシコ、ペルー、ウルグアイが参加するラテンアメリカ政府BIMネットワークが設立されました。
ラテンアメリカでのBIMの普及は遅れてはいるものの、各国で急速な進歩を見せており、BIMの義務化を目指している国も現れています。
イギリスと北欧諸国を中心にBIMが進んでおり、ほかの地域でも着実な進展を遂げています。また、2016年にEU BIM Task Groupが結成され、現在は27政府が共通のミッションを掲げて活動を行なっているとのこと。
ヨーロッパのなかでもBIMが最も進んでいるのが北欧諸国で、各国でBIMを義務化し、公共プロジェクトで使用されています。特にフィンランドは2002年から国をあげてBIMを推進しており、2007年時点でのプロジェクトへのBIM導入率はエンジニアリング企業が60%、建築家は93%を達成しています。
BIMの導入が遅れていたドイツも、2020年にBIMの義務化が決まりました。
アジアでは、取引の機会を増やそうと各国でBIMが活用されています。一方で、業務にデジタルツールを完全統合している企業はわずか7%のみ。デジタル化が遅れているアジアのなかで、BIMに積極的なのがシンガポールとベトナムです。
シンガポールでは、2010年に建築建設庁がBIM政策を実施。企業にDX助成金を支給し、デジタル化を促す役割を担っています。2015年には、5,000㎡以上のプロジェクトに対して、BIMプランが必須となりました。
ベトナムはというと、建設省が中心となり、政府主導による体系的な取り組みでBIMの全国展開を進めています。BIMの全国展開に向けた実施計画には、提携しているイギリスやアメリカの民間企業から学んだBIMの最も効率の良い方法が生かされているとのこと。そのほかにも、イギリスの大学を参考にBIMアカデミックフォーラムを設立し、デジタル建設向けカリキュラムの開発向上を行なっています。
グローバルなBIMネットワークが発足し、各国でエンジニアリングや建設を変革しようとする政府の動きが加速しています。グローバルなBIMがさらに成長すれば、「IoTと接続性の向上」や「AIによる自動化の拡大」、「ロボット工学の発展」などが実現する日も近いかもしれません。
地球の人口は2050年までに98億人に到達すると予測されており、地球人口を支える優れた建設手法が必要です。国境を越えた連携や知識の共有が重要となってくるため、グローバルなBIMの重要性は今後ますます高まっていくことでしょう。